講演会「アイヌ民族を撮影した最古級の映像とその被写体」実施報告

AUTHOR

アイヌ民族文化研究センター 学芸主査

大坂 拓

  • 職員の所属・役職は、森のちゃれんがニュース発行当時の情報です。

2025年5月24日(土)、フランス・パリ日本文化会館において、アイヌ民族が写された映像を主題とする講演会を実施しました。

まず取り上げたのは、フランスのリュミエール社が雇用した映画技師フランソワ=コンスタン・ジレルが1897年に撮影した、Les Aïnus à Yéso, I・Ⅱ『蝦夷のアイヌⅠ・Ⅱ』という2本の映像です。この作品はアイヌの姿を収めた最古の映像として広く知られてきましたが、撮影地点についてはいくつかの説が並立する状況にありました。

続いて紹介したのは、1912年に同じくフランスのパテ社が公開したUn people qui disparaît–LesAînos『滅びゆく民族―アイヌ』という映像です。この作品も撮影地点などの詳しい情報は伴っていませんが、今回、人物の背後に写る風景から現在の室蘭市絵鞆で撮影されたものと特定できること、主役となった男性は当時の同地区の有力者、押杵帯九郎であることを明らかにしました。そのうえで、一枚の写真の中に押杵と『蝦夷のアイヌ』に写る男性らが並んだ写真が残されていることなどから、『蝦夷のアイヌ』もまた、絵鞆で撮影された可能性が極めて高いことを指摘しました。

押杵は1880年代には集落の総代人を務め、その後、集落の子供たちのために学校を誘致し、自身の所有する家屋を仮校舎として提供した人物として知られています。講演会の最後は、「滅びゆく民族」という誤った認識のもとで記録された映像ではあるものの、そこに写っているのは苛酷な社会状況のなかで子孫のために未来を切り開こうと葛藤していたアイヌの姿であることを述べて締めくくりました。

今回の講演会は、パリ日本文化会館が4月29日~7月31日にかけて実施した「アイヌ文化特集」の一環として企画されたものです。100年以上前にフランス人が残した映像をパリで紹介するという素晴らしい機会を与えてくださった同館のスタッフの皆様、また、会場およびオンラインでご覧いただき、熱心な質疑と素晴らしい感想を伝えてくださった全ての方々に、あらためて心よりお礼申し上げます。

なお、当日の模様はパリ日本文化会館のYouTubeチャンネルで公開されています。著作権の都合により映像部分はカットされていますが、関心をお持ちのかたは下記リンク先からご覧くだされば幸いです。

画像
写真1 会場に向かう道から望んだセーヌ川(筆者撮影)
画像
写真2 押杵帯九郎の肖像を用いた絵はがき(筆者蔵)