“北海道3億年の地史”の 紹介を目指して

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北海道研究センター(自然系) 学芸主査

圓谷 昂史

北海道研究センター(自然系) 学芸主査

成田 敦史

北海道研究センター(自然系) 学芸員

久保見 幸

  • 職員の所属・役職は、森のちゃれんがニュース発行当時の情報です。
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写真は、浦幌町で地質調査をしているところ。右下:成田敦史、右上:久保見幸、左上:圓谷昂史。左下:地質調査にご協力いただいた浦幌町立博物館の持田誠学芸員。

1 博物館の地学資料と調査研究

当館では岩石、鉱物、化石などの地学資料を7,674件収蔵しています(北海道博物館,2024)。代表的な資料は、当館が立地する石狩低地帯の野幌丘陵から産出した、新生代第四紀(約258万年前~現在)の化石です。例えば、ナウマンゾウやマンモスゾウなどの陸生哺乳類をはじめ、クジラやセイウチなどの海棲哺乳類、貝類などの海棲無脊椎動物があります。これらの化石が見つかった地層を詳しく調べてみると、約100万年前は陸地ではなく、日本海と太平洋(石狩市~苫小牧市のあたり)をつなぐ海峡があったことが明らかになりました。このことは、当館総合展示第1テーマで詳しく紹介しています(図1)。

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図1 総合展示第1テーマ「北海道120万年物語」

北海道の地質学的な歴史(北海道の地史)は、古生代石炭紀(約3億年前)に遡ると考えられています。ここから現代までの間に、大地や気候は大きく変動し、生き物も絶えず入れ替わってきました。私達は、この石狩低地帯を中心に、全道各地を訪れて、3億年の地史を紐解くための調査研究をしています。ここでは、2020(令和2)~2024(令和6)年に実施した、北海道博物館『北海道の自然・歴史・文化総合研究プロジェクト「石狩低地帯北部地域を中心とした新生代の古環境復元Ⅱ」』の一幕を紹介します。

2 研究概要

本研究プロジェクトの目的は、①北海道の新生代(約6,600万年前~現在)に関する地学資料を対象に古環境を復元すること、②①で得られた研究成果を活用した展示や教育普及を通して道民の皆様にご紹介すること、の2つです。当初、第四紀の貝類化石を研究する筆者の圓谷が中心となり、調査を進めてきました。その後、2021(令和3)年に地質年代学を専門とする久保見、2022(令和4)年に古植物学を専門とする成田が着任したことで、より幅広い分野の研究が可能になりました。そこで、③石炭紀~中生代白亜紀(約3億年~6,600万年前)に関する地学資料を対象に古環境を復元すること、を追加しました。

2022年は、北海道東部の浦幌町で、恐竜絶滅時の痕跡を示す白亜紀-新生代古第三紀(K/Pg)境界を調査しました。この境界は、東アジアで唯一、本町に分布するとされています(久保見ほか,2024)。次章からは2023年と2024年の調査概要を紹介します。

3 2023年調査「三畳紀の石灰岩」

北海道南部の渡島半島地域で、道内最古級の岩石を調査しました。この地域には、石炭紀~中生代三畳紀(約3億~2億年前)のサンゴやフズリナなど、主に炭酸カルシウム(石灰分)の殻を持つ生き物の死骸が積もってできた石灰岩が分布しています。調査対象とした石灰岩は、“上磯石灰岩”と呼ばれるもので、北斗市の峩朗鉱山に大規模に露出しています(図2)。

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図2 “上磯石灰岩”の露頭(北斗市:峩朗鉱山)(写真中の黒いバーは約2mを示します)

調査の結果、“上磯石灰岩”は石灰岩と、石灰岩に不純物が混ざってできた苦灰岩で構成されており、層状、塊状、角礫状、および小さな断層などの堆積構造を観察できました。多様な構造は、遠い海洋プレート(地球の表面を覆う岩盤)上にあった石灰岩が、長い年月をかけて移動し、地表に現れるまでに複雑な物理的・化学的な力を受けたことを示しています。また、石灰岩からは、コノドントと呼ばれる動物の歯の化石が報告されており、堆積した年代は少なくとも約2億年前と推定されています(坂上ほか,1969)。

ところで、石灰岩はセメントの原料となるため、現在もこの鉱山で採掘されています。2億年前にできた岩石が、建材として姿を変え現代の土木建築やインフラを支えている、と考えると、地球の営みの恩恵を改めて感じることができました。

4 2024年調査「新第三紀の植物化石」

北海道北部の士別市と美深町を含む名寄盆地周辺で調査しました。本地域では、新第三紀中期中新世(約1,300万~1,100万年前)の地層が分布しています。当時の日本列島は、大部分が海に覆われていたため、海底に砂や泥がたまってできた地層が多いです。しかし、陸でできた珍しい地層もあり、その一つが美深層です。美深層からは、これまで30種以上の葉や果実などの植物化石が見つかっています。産出する化石からブナやカエデなどの広葉樹と、トウヒなどの針葉樹の混交林植生が存在したことが明らかになっています。2020年にはヤナギ科の新種、Salix palaeofutura(サリックス・パラエオフトゥラ)も報告されており、日本の植物化石研究の重要地域とされています(Naritaetal.,2020)。

今回は、より詳細な古植生を明らかにするための研究用試料と、展示や教育普及で活用するための試料を採集しました。その中には、この地域で初めて産出した果実の化石も含まれており現在、解析中です(図3)!

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図3 カエデの仲間の巨大な果実の化石(翼果)の写真(左)とそのスケッチ(右)。(写真中の黒いバーは1cmを示します)。

また、「幌加内オフィオライト」と呼ばれる、通常、陸上では確認することのできない、海洋プレートの一部がめくれ上がってできた岩石も調査しました。2023年調査の石灰岩と同様、北海道の大地の形成過程を示す、貴重な地質学的証拠です。

5 今後の課題

5年間の調査研究を通して、数多くの知見と地学資料を収集することができました。一方、“北海道3億年の地史”の紹介には、地質年代の再検討という課題が残されています。近年の分析機器の発達で、より詳細な年代測定が可能になっています。今後は、本プロジェクトで得られた資料を中心に、特に地質年代学的研究を進め、当館の総合展示や企画展示、教育普及などのイベントで成果を公表していきたいと思っています。

  • 引用文献

    北海道博物館,2024,北海道博物館要覧 第8号(要覧2022・2023年度)–第2期中期目標・計画実績報告書3:1-174.
    久保見ほか,2024,北海道十勝郡浦幌町に分布する根室層群の白亜紀/古第三紀(K/Pg)境界の剥ぎ取り標本の作製記録.浦幌町立博物館研究紀要24:11-16. Narita et al., 2020, Late middle Miocene Konan flora from northern Hokkaido, Japan. Acta Palaeobotanica 60:259-295. 坂上ほか,1969,北海道渡島半島上磯石灰岩のコノドントとその地質時代の考察.地学雑誌78:415-421.