- 職員の所属・役職は、森のちゃれんがニュース発行当時の情報です。
著者プロフィール
1993年生、神奈川県出身。大学時代は6年間帯広で過ごす。2018年より当館学芸員。専門は野生動物、担当は博物館資料学。2021年2月に標本をテーマにした講座を行いました。
冷凍庫の中身の調査をしています
冷凍庫、といってもご家庭の冷凍庫ではありません。私が調べているのは博物館で使っている冷凍庫の中身です。あまりイメージがつかないかもしれませんが、博物館では冷凍庫を使って自然史標本の保管や文化財の保存処理をしていたりします。色々な用途がありますが、当館では自然史標本の一時保管や標本の乾燥、そしてDNAサンプルの保管のために使用しています。
バックヤードの地階にある冷凍庫はあまり大きなものではありませんが、蓋を開けると色々な「お宝」を見つけることができます。「お宝」の例を挙げると、野幌森林公園で採集された動物のフン、乾燥中の昆虫標本、植物のタネ、大きな魚、そして哺乳類や鳥類の遺体などです。これらの「お宝」に物理的・化学的に手を加えることで、常温で長期保存できる状態にします。これが生物標本と呼ばれるものです。つまり、これらの凍った「お宝」はよく見かけるような標本の材料ということになります。
最近、私はその「お宝」の中でも鳥類について、近隣の博物館に協力していただき調査をはじめました。ここでは、その調査内容や鳥類標本の収集活動などを紹介したいと思います。
遺体を集めてどうするのか?
当館に保管されている鳥類の遺体は全部で43個体あります。これらはすべて野生由来のもので、博物館の近くで事故死していたものが多くを占めています。これらの遺体をどうやって集めているかというと、まず窓ガラスにぶつかったり交通事故に遭ったりして死んでしまった鳥を拾ってきます。そして採集した場所と日付をメモに書いたら遺体と一緒にビニール袋に入れて博物館の冷凍庫に入れます。集められた鳥類の遺体は、将来の展示や研究に活用するために剥製標本や骨格標本に加工します。標本作製は専門の業者にお願いしたり、簡単なものであれば学芸員が自前で作ることもあります。
こうした方法で鳥類の標本を収集していますが、死んでいるとはいえ動物を扱うので色々と注意しなくてはいけないこともあります。野生動物は人獣共通感染症のもととなる病原菌などを保有しているおそれがあるので、取り扱うときには衛生面に十分配慮する必要があります。例えば、遺体を拾うときに素手で直接触らないようにすることなどは基本で、標本作製時には手袋やマスク、白衣の着用をするようにしています。また、作業後に動物園や牧場などの動物飼育施設には近づかない配慮も必要です。
どんな鳥がどれだけあるのだろう?
このように鳥類の遺体を集めている博物館は当館以外にもあります。しかし、この採集方法では、どうしても集まる種に偏りが出てきてしまったり、状態も良し悪しを選ぶことが難しいため、鳥類標本のコレクションを揃えていくのは大変なことです。各館独自の活動に加えて、近くの博物館同士で集めた遺体の情報をシェアすることで、標本交換や譲渡をしやすくできるのではないかと考え、札幌市近郊の博物館などの施設の協力のもとで冷凍庫の鳥類遺体調査をしました。
調査では、とにかく冷凍庫の中に保管されている遺体を記録していきます。採集日や採集場所がラベルに書かれているので、それをリストに転記していきます。ときには一袋の中に何個体も入っていたりすることもあり、一点一点確認することで確実なリストを作っていきました。施設によっては管理用のデータを使いました。こうして得られた施設ごとのリストをまとめて、ひとまずひとつのデータにしました。現在、当館含め4館分、鳥の数でいうと91種233個体分のデータが集まっています。
どんな鳥が保管されているのか少し見てみましょう。合計で5個体以上みられた科(目の下、種の上の分類階級)を多い順に並べてみました(表1)。上位に入っているヒタキ科、キツツキ科、アトリ科、シジュウカラ科、ハト科は身近な小鳥として知られるような鳥が多く属しています。主に洋上で生活するウミスズメ科や小さなツルの仲間のクイナ科などの比較的珍しい科も保管されていることがわかりました。
なぜ鳥類の遺体を調べるのか
環境教育や自然史研究の場面では、博物館等の所蔵する自然史標本が重要な役割を果たすことは少なくありません。将来に残すべき自然史の記録ではあるのですが、鳥類や哺乳類は法律で捕獲が制限されているため、前述の方法に入手手段が限られています。停電のリスクやスペースの問題を抱える冷凍庫での保管は永久的なものではなく、なるべく早くに標本化する必要があります。しかし、処理が遅れて長期間冷凍保管されてしまっているものも今回の調査では見つけることができました。処理が遅れてしまう理由として、標本化には労力やお金がかかることが挙げられます。そうなると、たくさんある在庫のなかから優先順位をつける必要が出てきてしまい、選に漏れた個体が溜まっていくという仕組みです。
冷凍庫の鳥類遺体の保有状況を館外に公開している例はほとんどありませんが、仮に標本化の優先度が異なる利用者がこの情報にアクセス可能になると、活用チャネルの増加が見込まれます。例えば、当館では所蔵する鳥類標本の数は300点ほどあります。タンチョウや大型のワシタカ類、家禽などは複数の標本を収蔵していますが、ハシブトガラやスズメなどに代表されるような普通種の標本は残念ながら十分に揃っていないので、そうした種の標本化優先順位は高くなります。
今回の調査は冷凍保管されている鳥類遺体の可視化が目的でした。将来的にはデータベースの公開を目指していて、それによって活用チャネルの増加を期待しています。
「博物館資料学」担当として
北海道博物館のなかには、資料や地域にフォーカスした研究を行っている学芸員がたくさん在籍しています。私の仕事はそうした学芸員の仕事が円滑に進むようにするための基盤整備ともいえます。資料の収集から博物館での登録まで、そして資料情報の整理や活用をするときに、役立ててもらえるような取り組みや研究を進めています。
今回は館内外の自然史系学芸員が鳥類標本を収集しやすく、活用しやすくするためにはどうしたらいいか、ということをテーマに研究をしました。抱えている課題を少しでも減らして、学芸員と利用者の方々が資料を使うときの利便性を高めていきたいです。
※本研究は、日本科学協会の笹川科学研究助成を受けて実施しました。研究課題名は「博物館と地域の連携による鳥類標本データベース構築―未利用個体の活用に向けたモデルづくり―」です。