北海道博物館とひがし大雪自然館の研究グループは、北海道上士幌町ぬかびら源泉郷付近の約 680 万年前(新生代新第三紀後期中新世)の地層から、現代は北極圏や高山帯に分布するチョウノスケソウ属(Dryas)の、新種の葉化石を発見しました。
この化石は、同属の植物としてはこれまでに報告されている中で最も古く、かつ最も南の地域で見つかった化石であることに加え、同属の確実な化石としては日本初の発見となります。
本研究は、現代の北半球の寒冷地に生育する植物や日本の高山植物の進化史、地質時代の気候の解明に重要な手がかりを示すものとして注目されるものと考えます。
研究成果は2026 年7月 17 日付で、英文国際学術誌「Paleontological Research(パレオントロジカル・リサーチ)」に掲載されました。
【研究のポイント】
・現代では北極圏や高山帯に分布するチョウノスケソウ属(Dryas)の新種化石を発見
・新種 Dryas nukabiraensis(ドリアス ヌカビラエンシス)を命名(和名;ヌカビラチョウノスケソウ)
・本属の葉化石としては世界最古(約680万年前)かつ世界最南方域での化石記録
・これまで不明な点が多かったチョウノスケソウ属の進化史を探る重要な化石記録で、同属が約680万年前までには出現し、北海道で生育していたことが明らかになった
【研究の概要】
北海道博物館の成田 敦史(なりた あつふみ)学芸主査と、ひがし大雪自然館の乙幡 康之(おっぱた やすゆき)学芸員(主査)の研究グループは、北海道河東郡上士幌町のぬかびら源泉郷付近に分布する新第三紀後期中新世(約 680 万年前)の地層から産出した植物化石を詳細に調査しました。
その結果、バラ科チョウノスケソウ属の新種の葉化石であることが明らかとなり、Dryas nukabiraensis(ヌカビラチョウノスケソウ)として新たに命名しました。
現代のチョウノスケソウは、白い花を咲かせる美しい高山植物として登山家や植物愛好家から人気が高く、日本では北海道や本州中部以北の高山帯に分布します。
本種は、現生種とよく似た葉の形態を示しながらも、葉脈や表面に生える微細な毛の特徴に明確な違いが認められ、新種として認定されました。
現代のチョウノスケソウ属には11種が存在し、いずれも北極圏や高山帯など寒冷な環境に分布する植物です。
共に産出する植物化石や地層の特徴などを総合的に検討した結果、ヌカビラチョウノスケソウも比較的冷涼な環境に生育していた可能性が高いと考えられます。
これまで同属の化石は北極圏の500万年前以降の新しい時代の地層から報告されてきました。今回の発見により、チョウノスケソウのなかまがさらに約200万年古い時代には地球上に出現していたことが明らかになりました。
同属が約680万年前までに東アジアに出現し、東アジアから北極圏へ生育環境を広げたという進化史、あるいは約 680 万年前には北海道を含んだ北半球で同属が既に広い分布を見せていた可能性が考えられます。
【本研究の意義】
本研究は、これまでほとんど知られていなかったチョウノスケソウ属の古い時代の進化史を解明する上で重要な発見です。
これまでのチョウノスケソウ属は北極圏から見つかる新しい時代の化石による進化の歴史の検討や、数万年前の氷期・間氷期の気温変化で分布域がどのように変化して現代に至ったのかという視点に留まっていました。
しかし本研究では、北海道で新たに得た化石に基づいてより古い時代のチョウノスケソウ属の形態や生態について検討しました。
その結果、チョウノスケソウ属が約 680 万年前までに出現しており、しかも現代のチョウノスケソウ属と同じように寒冷な気候を好んでいた可能性が考えられることが示されました。
本研究に基づくチョウノスケソウ属のより古い時代の生態や進化史の検討により、地球温暖化の影響を受けやすい高山植物の生態や保全について検討するための基礎資料となりえます。
【標本の所在】
ホロタイプ(新種の基準となる標本)を含むタイプ標本が、北海道博物館で6点、ひがし大雪自然館に7点がそれぞれ収蔵されています。
【展覧会の開催】
北海道博物館 総合展示室 クローズアップ展示0にて、「世界最古のチョウノスケソウ化石」を開催します。
展示期間:2026年8月7日(金曜日)から2026年12月16日(水曜日)
内容:北海道から高山植物として人気の高いチョウノスケソウによく似た葉化石が産出しました。
国内初・世界最古の発見になります。この展示では最新研究成果とともにチョウノスケソウ類縁の葉化石を紹介します