
1993年茨城県日立市生まれ、北海道北見市育ち。弘前大学卒業、北海道大学大学院修士課程修了、2018年より当館学芸員。担当はアイヌ民具。写真は、衣服の資料撮影をしているところ。
気がつけば…7年目?!
2018年4月に学芸員として北海道博物館に採用されてから、気がつけば7年が過ぎようとしていました。思えば、着任当時は、まだ大学院生で、それから本当に色々なことがありました。そんな、長かったようであっという間の7年間について、調査を進めてきたアイヌ民具(資料)を中心に振り返ってみようと思います。
耳飾り
私が初めて出会ったアイヌ民具は、大学の卒業論文執筆を機に取り組んだ、耳飾りでした。アイヌの耳飾りは、金属を素材として作られた本体に、ガラス玉や本体と同じ金属製の飾り玉をつけたものが多く残されています。

この研究では、この耳飾りを対象として、素材となる金属の成分分析を行い、その結果を耳飾りの形状による分類結果と照合することで、大まかな年代変遷を見出すことができました。調査の際は、道内の複数の博物館施設の協力のもと、アイヌ民具として所蔵されている耳飾りを数多く調べましたが、初めて本物の耳飾りを手にした時の感動は、今でも忘れられません。
その後、当館に着任してからも調査を続け、1871(明治4)年に開拓使が男性の着用を禁止する以前は、男女の区別なく身につけた耳飾りが、耳たぶに穴をあける代わりに耳飾りを縫い付けた鉢巻を着用する、通常のピアスと同じ太さにアレンジされた製品を購入して身につける、などのように、時代が新しくなるにつれ変化してきた身につけ方にも着目し、情報を収集しています。また、製作地や流通ルートを明らかにするため、耳飾りの飾りの留め方や作り方(工法)にも着目し、調査を進めているところです。
首飾り
当館に就職してからは、首飾りの調査にも着手しました。調査を始めた理由は、“首飾りは、耳飾り同様、かつては交易によってアイヌ文化にもたらされた移入品の装身具であるため”…と建前はこうですが、本音は、“耳飾り付きの首飾り”の存在を知り、疑問を持ったからでした。

首飾りの中には、飾り(部品)として耳飾りが用いられるものもあったようですが、これまでの研究や文献を参照すると、耳飾りを使用しない時は首飾りにかけておいた、という記述も見られます。しかし、実際の資料を見ていくと、付属の耳飾りは開口部が狭く、これを飾りが少なく紐に余裕のある首飾りならまだしも、ガラス玉がびっしりついた首飾りへの取り外しは困難そうに見える、といった資料が多く残されています。このことからは、現在博物館に多く残されている“耳飾り付きの首飾り”は、あくまで飾り/部品としての耳飾りを付けた首飾りがほとんどであり、着脱できる耳飾りが付いた首飾りはあまり伝世していないことが言えるのではないか…と未だ推量の域を出ませんが、こうした素朴な想いを起爆剤に、まずは、耳飾り同様、形を捉え、丁寧に分類する作業を進めています。これまでに行なった調査からは、部品の一つである飾り板にはある一定の規格や工法が存在することが見えてきたので、今後はこれを手がかりに調査を継続したいと考えています。
当館に着任以降、継続的に行なってきた博物館所蔵のアイヌの耳飾りと首飾りの調査。当館資料以外も対象としているため、道内はじめ各地の博物館・施設の皆さんの全面的な協力がなければ決して実行できない調査です。これまでの調査でも、本当にたくさんの方にお世話になりました。今後は、いつか日本国内に所蔵されている全ての資料を調査する事を目標(!)に、私の学芸員人生における“ライフワーク”として進めて行こうと考えています。
衣服の調査も進めています
この7年間では、そんな“ライフワーク” に並行して、当館が所蔵するアイヌ民具資料の調査も進めてきました。現在、当館に所蔵されているアイヌ民具は約6,300点で、今からおおよそ150~200年ほど前の暮らしの中で実際に使用されたものが中心となっています。これらは、前身の旧北海道開拓記念館時代に収集されたものがほとんどですが、大変ありがたいことに、現在も、毎年数件~数十件ほど資料の寄贈をいただており、日々、その受入と整理作業を行なっています。具体的には、資料の状態確認(健康診断)を兼ねて、白黒写真をカラーかつデジタル写真で撮影し直し、資料の素材や作り方を観察し、過去の記録と照合するなどの作業を進めています。
2020年3月には、その成果の第一歩として、作業を終えた全156点の衣服資料を撮り下ろし写真付きで公開することができました。
カメラ初心者が始めた作業だったので、最初に撮った衣服と最後に撮った衣服では、大分出来栄えが異なる写真になっていることは秘密ですが、当館所蔵の衣服資料の豊富さを知っていただく機会になったのではないかと感じています。その後も、ときには博物館実習生の皆さんの力も借り(①)ながら、少しずつ着実に当館所蔵の資料調査を進めています(②)ので、今後の続報にご期待ください。
展示会も開催予定です!
2025年の4月末から、蔵出し展「アイヌの衣服―北海道博物館の所蔵資料から―」を開催予定です。詳細は、後日、当館ウェブサイトにて告知予定ですが、一点でも多くの衣服資料を皆さんに見ていただけるよう、鋭意準備中ですので、どうぞお楽しみに!
- 本記事は、「ポーラ美術振興財団令和3年度助成『アイヌ民族の交易品服飾資料に関する基礎的研究―北海道内の博物館所蔵資料を対象に―』」及び「日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:23 K 00938)『考古学的手法を導入した移入品アイヌ民族資料の基礎的研究-耳飾りと首飾りを題材に』」の成果の一部です。