- 職員の所属・役職は、森のちゃれんがニュース発行当時の情報です。
この太鼓(写真1右)収蔵庫で初めて出会ったときは、とても小さくて(直径約13cm)、カラフルなこともあり、一瞬「おもちゃ?」とも思いましたが、手の込んだ、演奏に耐えられるつくりの太鼓です。2020年の第17回企画テーマ展「楽器見る・知る・考える」※1の準備中のことでした。
資料データベースによれば、メキシコの先住民族の民具とのこと。
(現在の北海道博物館では、「北海道及び北海道 と関連の深い諸地域」の資料に収集対象を限定していますが、旧北海道開拓記念館の時代に収集された資料の中には、それ以外の地域のものが含まれていることもあります。)
ほかにもメキシコ先住民族のものとされる資料がいくつかあり、写真1左の縦笛もその1つでした。材料は植物で、吹き口はリコーダーと基本的に同じつくりですが、リコーダーよりも丈が短く、指穴が表裏あわせて3つです。
上述の「楽器」展で協力いただいた、楽器学とくに鹿笛研究の第一人者である枡谷隆男さんにみていただくと、この笛と太鼓とで1セットだろう、とのこと。英国~西ヨーロッパには、1人の奏者が同時に演奏する一対の笛と太鼓(英語では「パイプ・アンド・テーバー」)が、中世から伝わっています。また、世界の各地にもいろいろな「パイプ・アンド・テーバー」タイプの楽器がみられます。
当館の資料が同類とみなせる決め手は、笛に指穴が3つしかないこと。太鼓のバチを片方の手にもって打つため、笛はもう片方の手でしか操作できないので、指穴の数も限られてきます。なお、中が空洞で穴が最低3つあれば、穴をふさぐ組み合わせと息の強弱で、オクターブ以上のメロディを演奏できるということです。
- 1 コロナ禍で開催中止、オンライン公開のみ。
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メキシコの先住民族のいくつかには、「Danza de los Voladores(ボラドーレスの踊り)」などの名で呼ばれる儀式※2が伝わっています。その儀式のあいだじゅう、小さな笛と太鼓とを1人の奏者が演奏し続けます。中には当館の太鼓と模様など外観がそっくりなものもあり、当館の資料はこの儀式で使われる楽器か、少なくとも同じタイプの楽器である可能性が高い、と考えられます。
この伝統儀式は、まず樹木を選んで切り出し(写真2)、高い柱にして立て(写真3)、供物をささげます。その後、4人の「ボラドーレス(=飛ぶ人)」とそのリーダーが柱の頂上の回転する木の枠まで登ります(写真4)。4人はロープで逆さになって空中を回転しながら少しずつ降下し、やがて着地します。それまでのあいだ、柱の頂上ではリーダーが笛と太鼓を演奏し続けます。
深刻な干ばつを免れ、恵みの雨をもたらすハリケーンを招くとともに、それが暴れないよう制御し、自然界に敬意を表し祈るために、こうした一連の流れの儀式が、古くから伝えられてきたといわれます。
- 2 UNESCO(ユネスコ/国際連合教育科学文化機関)の「無形文化遺産一覧」には、2009 年に「Ritual ceremony of the Voladores(ボラドーレスの儀式)」の名称で記載。
- 写真2・3・4は、メキシコ国立自治大学でボラドーレスの儀式などを研究されているLuisa Villaniさんによる「e Voladores (Flyers’) dance ceremony amongst the coastal peoples of Totonacapan – an aquatic ritual(2022, ウェブサイト「Aztecs at Mexcolore」)より。Villaniさんにはボラドーレス儀礼についてご教示いただきました。記して感謝申し上げます。
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