今から32年前、ハローワークで「博物館解説業務」という求人に応募し、幸運にも採用された私は、勤務開始から3日後、なぜか稲わらで「縄をなう」練習に励んでいました。なんと体験学習室で「わら細工」を実演・指導するのも、重要な業務の一つだったのです。もともと不器用な私は、先輩たちの根気強い指導の下で、何とか縄をなえるようになり、さらに悪戦苦闘を繰り返しつつ、とうとう一足の「ぞうり」を完成させることができました。その時の苦労と感動は今も忘れられません。そして長い年月が過ぎ、定年退職まであと数年となった今、今度は私が新人スタッフにわら細工を教える立場となりました。縄ないから履物、しめ縄づくりまで、これまで習得した技術を丁寧に伝えたいという思いに、新人さんたちも熱心に応えてくれて、頼もしい限りです。



博物館には多くの貴重な資料が展示・収蔵されていますが、その背景には、人の手による技術が潜んでいます。資料を後世に残すとともに、そこに関わる技術を伝えていくことも博物館の大切な使命です。博物館の職員、とりわけ体験学習に関わる一員として、先輩の手から受け継いだ技術を後輩の手へしっかりと受け渡したい。そんな思いを抱きながら、縄をなう手にも思わず力が入るこの頃です。