高齢者福祉施設レク担当者の博物館への意識とは

AUTHOR

博物館研究センター 副センター長

青柳 かつら

老人デイサービスセンターへのアンケート

近年、社会の高齢化が進展し、高齢者は博物館の主要ユーザーになりつつあります。当館では健康な高齢者団体による利用を上回るなど、介護の必要な高齢者福祉施設団体による博物館利用も多数となっています(※注釈1)。

一方で、高齢者福祉施設の方々がどのように博物館を意識しているのかは十分明らかではありません。ここでは、アンケートで把握した、高齢者福祉施設のレクリエーション(以下、レク)担当者の博物館への意識について紹介します。

この研究では、高齢者福祉施設の中から老人デイサービスセンター(以下、センター)をとりあげました。センターは、サービスの一環としてレクを提供していること、介護度が比較的軽い利用者が多く、道内博物館における高齢者団体利用の主体としては、高齢者福祉施設の中で最多となっている(※注釈2)ことが注目されます。

アンケートは、石狩地域、上川・留萌・宗谷地域に所在するセンターのレク担当者588名を対象としました(有効回答率35.4%)。地域を合計したデータの一部は、北海道内の博物館職員へのアンケート結果(※注釈2)と比較しました。

70%弱は博物館利用経験がある

まず、レクで利用したことのある博物館について、選択肢のうち「いずれも利用なし」は全体で32.2%で、これを除く、70% 弱の多数のセンターは博物館を利用した経験がありました。

内訳は、石狩(40.7%)、上川・留萌・宗谷(52.4%)とも、「博物館・郷土資料館」が最多で、全体でも最多44.2%を占めました(表1)。

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表1 レクで利用したことのある博物館[複数回答可]

高齢者が魅力を感じる展示「懐かしい昭和の暮らし」が約86%

高齢者が魅力を感じる展示について、石狩(85.5%)、上川・留萌・宗谷(85.7%)とも、「懐かしい昭和の暮らしに関するもの」が最多でした。全体でも、「懐かしい昭和の暮らしに関するもの」が群を抜いて最多85.6%を占めました。次いで、「高齢者がかつて経験した自然に関するもの(51.9%)」、「さわれる、音、匂いなど視覚以外の体験型展示(47.6%)」が僅差で多数でした(表2)。

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表2 高齢者が魅力を感じる展示[複数回答可]

博物館職員の結果との比較

一方、上記の地域を合計したデータを博物館職員の結果と比較すると、両調査の回答区分の分布には有意差が見られました。

レク担当者の回答は、博物館職員よりも「懐かしい昭和の暮らしに関するもの」、「高齢者がかつて経験した自然に関するもの」(以上、p <0.001)、「さわれる、音、匂いなど視覚以外の体験型展示」、「健康維持やセラピー的な効果を意識したもの」、「高齢者のアイディアを活かした内容、高齢者の出品によるなど、参加型展示」(以上、p <0.01)の比率が高く、「その他」(p <0.01)の比率が低くなっていました(表3)。

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表3 高齢者が魅力を感じる/ 人気の展示[複数回答可]

「高齢者が経験した自然」、「体験型展示」等はニーズに十分応えられていない可能性

両調査の比率の差について、有意差が見られた、「高齢者が経験した自然」、「体験型展示」、「健康維持やセラピー的な効果を意識した展示」、「参加型展示」等については、博物館職員の認識が薄かったり、博物館に該当する展示が少数で、センターのニーズに十分に答えることができていない可能性が明らかとなりました。

今後、博物館に行ってほしいサービス「出張型のレク」が49%

今後、博物館に行ってほしいサービスについては、石狩では、「高齢者施設を訪問して、出張型のレクを提供してほしい」、「短時間の見学でも楽しめるように、お勧めの見学ルートなどを示したパンフがほしい(以上、各47.6%)」、「車椅子を押す人員など、介助を支援してほしい(46.2%)」が僅差で多数を占めました。上川・留萌・宗谷では、「高齢者施設を訪問して、出張型のレクを提供してほしい」が最多52.4%を占めました。全体では、「高齢者施設を訪問して、出張型のレクを提供してほしい」が最多49.0%を占めました(表4)

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表4 今後、博物館に行ってほしいサービス[複数回答可]

アンケートからわかること

以上、センターのレク担当者の意識をコンパクトに紹介しました。70%弱ものセンターは博物館利用経験があり、「懐かしい昭和の暮らし」等を人気の展示としているものの、高齢者のニーズの捉え方にはレク担当者と博物館職員とでギャップがあること、今後は出張型レクや来館時の介助支援の充実等に、センターの博物館利用拡大の可能性があることなどがわかりました。

本アンケートでは、他にも、博物館利用上の問題点や、博物館の利用等に影響を及ぼすセンターの属性等を調査しており、これらのデータや考察は下記のウェブページで紹介しています。 こうした調査結果も参考に、高齢者福祉施設と連携しながらニーズに応えていくことは博物館の高齢社会での役割発揮の1つになると考えられます。末筆になりましたが、本研究にご協力くださった皆様にお礼申し上げます。


○本文の元となった調査報告は当館ホームページの「刊行物」、「北海道博物館研究紀要5号」「同1号」記事からPDF をダウンロードできます。

(※注釈1)青柳かつら 2020. 少子高齢社会のウェルビーイング創成型地域学習コンテンツの開発(Ⅱ):北海道内老人デイサービスセンターにおけるレクリエーションと博物館利用に関するアンケートの解析から. 当館研究紀要第5号.

(※注釈2)青柳かつら 2016. 高齢者と協働するナレッジ活用型地域資源学習プログラムの開発:2015 年北海道と2003年全国の博物館園対象高齢者プログラムアンケート調査結果の比較から. 当館研究紀要第1号.